長崎県・波佐見焼
第三話
持続とは、ずっと花が 咲き続けることではなく、 散っては大事なものを 次にのこし続けること。
陶土をつくる陶土屋さん、石膏で型をつくる型屋さん、
生地を成形する生地屋さん、絵付けや釉掛けをして器を焼く窯元さん。
町中に点在する、そんなプロフェッショナルたちをつないで、
企画した商品を形にし、お店やユーザーに届ける商社さん。
町全体が、焼きものづくりを手分けして行う、
ひとつの工場のような波佐見町。
話を聞いていくと、あの商社の人はもともとあの窯元の出身だとか、
あの人はあの人に技術を教わったとか、
あの職人とあの社長は小中学校の同級生だとか、
あの人のおじいさんにお世話になって、などなど、
外の人間にはわからないつながりが、
この町のものづくりのベースにあることを知る。
血縁も地縁も織り合わさった、広い意味での親戚のようなネットワーク。
土地に長年根ざしている地場産業のすごみを感じる。
ただ、限られた人の閉じたつながりでものをつくりつづけていては、
創造性は落ちていく。
この町は、経験からか、動物的な直観からか、
その危険にも気づいている。
「今までにない、こんなデザインにしたい」
「それは難しい。でもやってみようか」。
若い世代の持ち込む企画や、外のデザイナーからのアイデアを、
窯のおっちゃんたちは真に受けて考える。
つくり手が本気を出すことで、技はまた新たなエネルギーを帯び、
今を生き続ける。
波佐見焼に携わる人たちには、そういう生き方を感じる。
町では、窯業の枠を超えるチャレンジも広がっている。
波佐見焼を買ってもらうだけでなく、この産地を訪れてもらおう。
実はお米もおいしい土地。
ここに泊まって、波佐見焼の器で味わってもらおう。
町の有志たちが、窯業を軸に、
産業や官民の枠を超えた連携でツーリズム活動を始めた。
町に点在する、廃業した製陶所跡地を交流拠点として活かせないか。
ある商社の会長が始めたそんな模索は、
移住してきた陶芸家の助力を得て、
アートやデザインに関心のある若い世代が集う創造拠点
「西の原」として花開いた。
田んぼの多い南側では、地元建設会社の社長の尽力で、
地元食材を地元の器で提供する「陶農レストラン 清旬の郷」がオープン。
閉鎖されていた温泉施設が「はさみ温泉 湯治楼」として復活。
そばにホテルや宿泊施設もでき、「ミナミ田園」エリアとして
多くの人を癒す場になった。
ある商社の代表は、1200坪の私設公園をつくり、
子どもたちが思い切り遊びながら、
アートや波佐見焼に親しめる場所「HIROPPA」をつくった。
ある夫婦は、美しい棚田が見渡せる古民家をリノベーションして、
民泊「oniwa」を営み始めた。
「西の原」を盛り上げた陶芸家は、山間の郷の製陶所跡に、
また新たな表現と教育の拠点をつくり、
ツーリズム活動を主導してきた会長は、
器を焼く窯の余熱を農業に使う仕組みづくりに取り組む。
町は今、陶器市以外にも、人が訪れる目的地となった。
1600年代、山間の集落に共同窯を築き、
焼きものづくりを始めた波佐見の人々。
それから今までには、明治維新もあれば、世界的な不況も、
戦争の時代もあった。
400年の時の流れのなかでは、いい時期ばかりではなく、
産業が途絶えそうになったこともあったはずだ。
ただ、冬は枯れたように見えた植物たちが、
春には何事もなかったように、また芽吹き、花を咲かせるように、
この町の窯業は、この地に深く根を張って、
たくましく生き抜いたのではないか。
持続とは、ずっと花が咲き続けることではなく、
散っては大事なものを次にのこし続けること。
山の斜面の登り窯の跡に座って、
吹き上げてくる5月の風のなかで、そう思った。
次はどんなニュースを私たちは届けられるだろう。
陶農レストラン「清旬の郷(せいしゅんのさと)」
波佐見のミナミ田園エリアにある地産地消の田園レストランです。波佐見の食材のおいしさを味わってほしいとお米はかまど炊き、食材を地元産に厳選して提供しています。旬の食材をたっぷり使ったスローフードのほか、石窯で焼き上げる本格ナポリピザを味わうことができます。
minami-denen.jpはさみ温泉「湯治楼(ゆうじろう)」
とろみの心地よい美肌の湯。サウナ付きの冷泉、内風呂、シャワーとカランもすべて源泉かけ流しの温泉施設。源泉はアルカリ性の炭酸水素塩。通常のお湯に比べ約3倍の保湿性があり、湯上りのしっとりした肌が長く続きます。地元の人たちにも長く愛されてきた温泉施設です。
minami-denen.jpホテルブリスヴィラ波佐見
観光のほか、ワーケーションでの利用も可能。隣接するはさみ温泉「湯治楼(ゆうじろう)」と提携し、宿泊に入浴券がついています。他にも波佐見町鬼木の棚田米や長崎県産にこだわった料理を波佐見焼で提供する朝食メニュー、施設内の茶室ではその場でたてた抹茶や和菓子などを楽しむことができます。緑豊かな山々や田園に囲まれたホテルです。
www.hotel-blissvilla.comCOYANE
波佐見焼のギャラリー『ÔYANE(オーヤネ)』のすぐ横に、2020年夏にオープンした『COYANE(コヤネ)』。名前の通り『ÔYANE』よりちょっと小さな屋根の、フォーの店です。波佐見の人気スポット西の原の『GROCERT MORISUKE』の立ち上げにバイヤーとしてかかわったフードコーディネーターのNAOさんによる「シンプルでからだに優しいフォー」を提供しています。
hasamilife.comÔYANE
400年の歴史を持つ波佐見焼の新旧様々な商品を扱う「ÔYANE(オーヤネ)」。 店の内装は陶磁器を焼く際に使うサヤ(厘鉢)を再利用した波佐見ならではのもの。ギャラリースペースでは常に波佐見焼の企画展示や販売が行われ、併設された 「陶器の窯蔵」では多種多様な波佐見焼を取り揃えています。
oyane.jp西の原
2001年に廃業するまで、江戸時代から十代続いた窯元が営む製陶所「福幸製陶所」の跡地を再利用した観光施設。レストランやギャラリー、雑貨屋、グロッサリー、ボルダリング、おにぎりや、コーヒー、アイスクリームなどを楽しむことができる波佐見の人気スポット。ピザ窯付きのイベントスペース、図書室なども併設し、地元民の交流拠点にもなっている。
24nohara.jp旧波佐見町立中央小学校講堂兼公会堂
国登録有形文化財。昭和12年(1937)波佐見尋常高等小学校の講堂兼公会堂として建てられ、平成7年(1995)の新築移転まで、多くの町民に親しまれながら利用されてきた。和洋折衷の風格ある玄関が特徴的で、吹き抜けとなった中央部と低い天井からなる内部空間は、音響の面でも高い評価を得ています。
hasami-kankou.jpやきもの公園
古代から近代までの世界の窯12基を復元した野外博物館「世界の窯広場」や波佐見の30社を超える窯元の商品を販売する波佐見焼ショップ「くらわんかん」のほか、波佐見焼の歴史博物館、観光協会を併設する総合公園です。毎年ゴールデンウィークには、波佐見で最大規模の「波佐見陶器まつり」が開催されています。
www.town.hasami.lg.jpHIROPPA
波佐見の商社「MARUHIRO」がプロデュースした私設公園。敷地面積は約4,000平米の公園内に、自社のオリジナル波佐見焼や雑貨を販売するショップやカフェ、ビーチやプールを模した遊戯場、スケボーレーンなど、おとなとこどもの境なく楽しみながら波佐見焼を体験できる遊び心がいたるところにちりばめられた公園です。
hiroppa.hasamiyaki.jpMIDOU/株式会社高山
『MIDOU(みどう)』は波佐見の人気スポット「西の原」に次ぐ観光施設。約90年の歴史を紡いのできた窯元『株式会社高山』の敷地を利用して2024年にオープン。窯元での工場見学や工房体験ができるほか、カフェ「chimney(チムニー)」や窯業に使うガスタンクをキャンバスにしたアート作品などを併設している。
www.takayama-hasami.com中尾山
陶磁器の町「波佐見」の中でも、多くの窯元が集まる陶郷『中尾山』。江戸時代の陶磁器大量生産を可能にした世界最大級の登窯跡や、煉瓦造りの煙突、路地裏など、昔ながらの懐かしい風景が広がります。毎年4月には「桜陶祭」、10月には「秋陶めぐり」が行われます。窯元の工房が一般公開され、ウォークラリーや、やきものの直売などでにぎわいます。
www.town.hasami.lg.jp鬼木の棚田
日本の棚田百選の一つ。虚空蔵火山の裾で馬蹄形に開けた名勝地。深い山の恩恵を受けて天水で育つ棚田米は波佐見の特産品です。棚田のお母さんたちが運営する「鬼木棚田センター」では、棚田米のほかにも手作りの味噌や梅干し、米粉クッキーなどを販売。毎年9月の「鬼木棚田祭り」はウォークラリーや枝豆収穫祭、住民による案山子(かかし)の展示などで賑わいます。
hasami-kankou.jponiwa
重要文化的景観として指定される鬼木の棚田の中にある民泊施設。デッキからは建物を囲む水源豊かな山々や棚田の景色を楽しむことができます。波佐見に移住した家族と一緒に過ごす1日1組限定の宿泊プランを提供。時間をかけて丁寧に作られた食事は、釜炊きの棚田米や地元の野菜、近郊でとれた旬の魚など、厳選された四季折々の恵みを味わうことができます。
oniwa.fun