滋賀県・琵琶湖の真珠
第二話
今から 1300年ほど前、 ある詠み人が こう詠いました。
⋯⋯琵琶湖に眠る真珠よ。
あなたにずっと、
恋い焦がれていました。
一度でいいから触れてみたいと、
ひそかに夢見ていた。
けれど、手に入れた今のほうが、
激しく心惹かれているのです⋯⋯
これは、日本最古の和歌集「万葉集」にある一首。
幾星霜の朝と夜を繰り返しながら、 たっぷりと水をたたえてきた琵琶湖。
その静かな湖の底で、真珠は、貝の懐に抱かれている。
夜明けの光が水底に達する。月の光が水面を洗う。
そのすべての光を集めるように、
真珠は光沢を宿しながらゆっくりと育っていく。
すべての生きものの誕生が謎に包まれているように、
真珠も、有機的で神秘に満ちている。
どんな形に育っていくのか。
どうやって大きくなるのか。
どんな色を宿すのか。
真珠はこたえてくれない。
想像力が、水をたたえた湖のように心を満たし、
そして胸に抱かれた一粒の光は静かに、静かに育ってゆく。
あなたの心に静かな光を与える。